[Psychology]知能検査を実施した

2009年8月4日,心理学類の授業(実習)の一環として,知能検査を検査者として実施した。この業界にいれば知能検査を実施するのはそれほど珍しくもないのだろうが,初体験ということで記録しておく。この実習はとても面白かった。知能検査はIQを測定する心理検査だが,検査者の熟練度や非検査者との相性,非検査者の体調・気分でIQはかなり変わる可能性があることが実感できた。また,今回の経験を利用して,たとえば自分の子供のIQを高めるような教育をすることができると思われるが,そのような教育で人為的にIQを高めたからといって実際に賢くなるかどうかは分からない。

さて,今回実施したのは田中ビネー知能検査Vである。幼児から成年までと対象が広く,特に2歳から実施できるため,障害科学/医療福祉の分野で一般的な知能検査となっている。ところで,知能検査はその開発当初から知的障害を見つけるための検査であり,賢さを測定する検査ではない。したがって,知的障害を見つけることについてはよく研究もされ実績もあるが,その逆の方向,たとえば天才を見つけるということや,高いIQが何を意味するのかということについては研究も少なく,分かっていることも少ない。

知能検査は文字通り知能を測定する。というよりも,最近は「知能とは,知能検査によって測定されるものである」という知能の操作的定義に使われる。測定された値は知能指数と呼ばれる。これがIQである。しかし,この100年の知能研究が示すのは,知能は単一の値だけで表わせるような単純なものではないということだ。ほとんどの近代知能理論は,知能を階層構造で表わしている*1。田中ビネー式でも,成人の場合は二階層の数値を出すようになっており,単一の総合的なIQと,その下の階層として結晶性・流動性・記憶・論理推理のそれぞれの因子ごとのIQを出せるようになっている*2。また,それぞれのIQは偏差IQ*3であり,偏差値のように集団内の相対位置を表す値となっている。

知能検査の実施は本来訓練を受けたテスターが行う。対面して行う検査であり,検査者の熟練度や被検査者との相性,お互いの性格特性などがIQに与える影響は少なくないようだ。また,検査者が被検査者に好感を持つだけでIQが上昇するという現象も観察されている*4。これは今回の実施でも実感したことで,算出した値を見ると,言葉の意味を問うというような採点の難しい問題はやや不自然なほど高得点だった。

今回は検査者が未熟でありスムーズにできたとは言い難く,終盤では被検査者はすっかり疲労していた。このことを考えると,検査者側の不手際があると算出されるIQが低めに出る可能性があるだろう。被検査者が教示文の一部を聞き逃して誤りとなった問題もあり,わずかな集中の途切れでIQが数点変化することもあるようだ。

IQは真の知能*5を強く反映しているといわれている。それでは,IQを高める行為をすれば真の知能も上がるのだろうか。これはよく分からない。たとえば知能検査には言葉の意味を問う問題があるが,これは常日頃読書を行っていれば自ずと高まるだろう。このような自然な条件のもとでは,「常日頃読書を行う」という行為が知能の発露と考えられる。一方,ひたすら言葉の意味を暗記させるという作業を行わせたとしてもIQは高くなる。しかし,これがそのまま真の知能につながるかどうかは分からない。語彙が増えた結果,読書などで吸収できる事柄が増え,真の知能へつながるという可能性はあるが,もともとの知能が高くなければ,覚えた言葉を活用できず,IQは高いが真の知能は得られない,という可能性もある。結局,知能研究はまだまだ道半ばでよくわからないことが多すぎる,というのが現状のようだ。

参考文献

  • 1冊でわかる知能 (イアン・ディアリ, 2004)
  • IQってホントは何なんだ? 知能をめぐる神話と真実 (村上 宣寛, 2007)

*1:これは因子分析という統計手法によって分析した結果である。

*2:他の知能検査・知能理論では下位因子は10以上あるものが多い。

*3:平均100,標準偏差15となっている。成人用の田中ビネー式ではIQ200といった値はありえず,非常に高いとしてもIQ130程度にしかならない。本当にIQ130を取るような人ならば,接しているだけで特別な印象を受けると思われる。

*4:これをハロー効果という。

*5:他者が感じるような知性